メール打つのめっちゃ時間かかるから早く偉くなりたい


事務処理能力がそれはもう欠落している上に他人からどう思われるかを気にしてばかりの僕は、メールを送信するのにも返信するのにもとても時間がかかる。

「……『お忙しいなか大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。』……いや、『よろしくお願い申し上げます。』だな……」
「『お忙しいなか』3回も使ってんな…ってか先生に送るたびに毎回2回は使ってんな……削るか……よく見たら『恐縮ですが』も3箇所も使ってるわ……」
「いや、こんな枝葉末節の修正よりも、まず骨格を…どうすれば失礼にならないお願いができるか…結論が先、理由が後だとなんか強気感が出るな…理由先にするか………でもなんか冗長だな…」

 

この前、ある方に講演の依頼をするメールを必死こいて打っていた。気づいたら1時間が経過していた。

パソコンの画面には未だに完成しないメール。
いつの間にか失礼にならないことだけを目的としてこねくりにこねくり回していたせいで、もはや何がなんだかわからなくなってしまったメール。

 

早く偉くなりたいなあ
秒速でメール打てるぐらいになりたいなあ
お願い申し上げなくてもいいぐらいの立場になりたいなあ
「了解です♪」1行のみの返信できるぐらいになりたいなあ

 

講義後の復習に充てようと思っていた時間、メール打つので終わってしまった。
さすがに自分に嫌気がさした。
書きかけのままパソコンを閉じた。
夕食をとるために自転車に乗った。
さっきまでまだ明るかったのに、もう夜になっていた。
目が、チカチカするなあ……首が痛いなあ……

 

将来僕は、頑張って仕事を続けていれば、偉くなっていると思う。
でもだからといって、他人に偉そうな態度を取ることは決してしない。高校生や大学生のバイトにタメ口をきくことも、たぶんしないはずである。

ただ、将来偉くなった僕は、メールを秒速で打つだろう。
もしかしたら時間をかけて練ってくれたかもしれない文面に対し、息をするように軽く返信をするだろう。歳下が精一杯打ってくれた「大変お忙しいなか誠に恐れ入りますが、何卒よろしくお願い申し上げます。」に対して、「了解です♪」のみの返信をするだろう。音符がついているだろう。
なぜならその頃の僕は、メールの文面なんかよりも、僕のやる仕事の方にこそ価値があるはずだからである。

そうなっているはずである。

そうなっていると思っている。

 

そうなっている可能性がなきにしもあらずの将来の僕は時々、昔の自分が作成したメールを見返す。
Googleで「目上 お願い メール」で検索したページと首っ引きで1時間もかけて悪戦苦闘していた自分を思い出す。
何回も何回も打ち直しては読み返して、一体いつまでやってんだろう自分、と落ち込んだことを懐かしく思い出す。

だからそのために、今の自分、今の何も偉くない自分、頑張ってよろしくお願い申し上げていてくれ。
お忙しいなか誠に恐れ入っていてくれ。
「こんなことお願いしたら迷惑かな、もう少し丁寧な言い方があったりするのかな、……これが日本語としての限界か……あ、「私個人としても大変楽しみにいたしております。」入れようかな、、、」
日本語の限界をカバーするために私個人としても大変楽しみにいたしていてくれ。
そんなメールをたくさんたくさん送っておいてほしい。そしてそのたくさんのメールのうち1つをうっかり自分に送信しておいてほしい。
30年後、すっかりその道の権威となった僕が秒速で返信してやろう。


2050/9/31 8:02
了解♪
また飲み行こうね〜







30年後、メールがあればの話だけどね

 

その前に死なずに仕事を続けていればの話だけどね

 

事務処理能力培いて〜

 

 

 

 

 

エンド

 

じゃなくて遠藤