修習生日記 10月

 刑事模擬裁で一番ピエロだったのは僕だったのではないかな。恥をかくなら今のうちにと思って検察官役として被告人の反対尋問を買って出たのだけど,ここまで恥をかくとは思わなかった。供述調書の顕出の仕方,動作による再現の可否。講評が地獄すぎた。弁護側からも切れられたし,もうほんとすまなかった,すまなかったから,もうダメ出しをやめてくれ!とずっと思っていた。

 なので昨日はあてもなく原付で北上して街を出て,山道を走りに行った。あんまり整備されていないガタガタの道を走ったり燃料切れたらウケるなとか思ったりしながら心の傷の軽減を図った。

 ある集落を通り抜けたとき道のはずれに鳥居を見つけた。苔むした階段がひっそりと奥に続いていたので気になって降りてみた。他に人が来るような気配もなかったので,鳥居のすぐ右のわきに原付を停めた。ヘルメットもシートの上に置いたままにしておいた。

 鳥居をくぐると雑木林で,階段はすぐに左手に折れて林の中を緩やかに上るように続いていた。わきには柔らかそうな苔が広がっていたし,木もうっそうとしているわけではなく外の光が十分に届いていたので,身構えずに上ってくことができた。前日まで雨が降っていたせいか,木も土もしっとりとしていた。途中,右手に小さな池があった。「この水を汲んで擦った墨を用いると書が上達します」と書かれた木の看板が立っていた。水が透明だったので黒い土の底が見えた。ちょろちょろと水が流れ出ていて,下の川に注いでいるようだった。

 階段は再び右手に折れ,その数段を登りきったところに木でできた門があった。くぐるとそこが境内だった。目の前に祠のようなものがあると思ったら,門から伸びた参道はその祠の手前で直角に右に折れていて,その先に社があった。目の前の祠には不動明王と書かれていた。門から左に目を向けると小さな舞台があり,さらに奥は開けていて下方を流れる川が見えた。舞台から目をさらに左に移すと,小ざっぱりとした民家のような建物があり,玄関わきに「社務所」と掲げられていた。シャッターのようなものが閉まっており,だれもいないようだった。

 社務所の周りを回ってみると,先ほどくぐった門を脇から覗く位置に来てしまったので引き返した。地面がしっとりした土と苔であるせいか足音もせず,境内は静かでひっそりとしていた。今度は社まで進んでみると,わきに設えられた台の上に,参拝者が書き込んでいくノートがあった。手に取ってみると湿っていてこちらもしっとりとしていた。ノートは2020年の1月から始まっており,最後の書き込みが9月27日だった。僕も書き込んでいこうかな,と思ったけど,いやいや,と思い直しやめた。1冊の半分ほど埋まっていて,それなりにいろんな人が来ているんだなと思った。読んでいるうちに同じ署名があることに気づいた。定期的に近況報告に来ているらしかった。娘さんから中古の車をプレゼントされたと書いてあった。

 ノートを読むのに夢中になっていたことに気づいた。ふと振り返ってみたけど,相変わらず境内はひっそりとしていた。ノートの隣に,筒を振って棒が出てくるおみくじがあった。お金入れるところはどこだろうと見まわしつつ,ガラガラと筒を振ってみると,「八」と書かれた棒が出てきた。左手の壁におみくじの吉凶表が貼ってあり,「八」と書かれた部分を見ると末吉で「権勢絶大」みたいなことが書いてあった。富を築き,子々孫々まで家が繁栄するとあった。「家」ね・・・と思いながら吉凶表の末尾を見ると,「平成二年」とあった。平成2年はまだこんなあからさまなお家概念があったのかな,いずれにしても今の自分にはピンと来ねえなあと思った。

 ノートをもとの位置に丁寧に戻して,もう一度境内をぐるっと回った。不動明王の左側に,漢文で書かれた石碑があった。その傍らに解釈を記した看板があったので読んだ。「泉の水は尽きることはない。これからも。ずっと。」みたいな内容が書いてあったので,「泉?」と思い,どこかに湧き水でもあるのかと見まわしたけど,それらしきものは見当たらなかった。舞台の脇を通り,奥の開けた場所から川を眺めた。二つの川が合流しているのが見えた。社務所の前を通って門まで戻った。一礼して境内を出た。来た時と同じように下りの階段が続いている。階段の先に鳥居と,その脇に停めた赤い原付が見えた。・・・・・・

 

 尋問は,いかに言葉で供述を引き出すかである。安易に動作で再現する,安易に書面や写真を顕出する・・・ダメなんだって。

 言葉だけで目の前に映像を映し出す。

 ブログ書いてたら練習にならないかな。

 なんにせよあと3年ぐらい修習やっていたいです。

 

 

 

エンド

 


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その時撮った写真をみたら微妙に記憶と違ってた。

供述って難しい。

 

 

ターン・エンド