祭りの金魚は半分死ぬ

 修習が終わった後、同じ班のS君と飲みに行った。

 別に面白い話題があるわけでもないのに誘った。働き始めてからのことを話した。他に客が誰もいなかった。二人ともビールを頼んだ。

 途中で班の話になった。班によってカラーが違うからよくそういう話は出る。〇班はみんな優秀だという話になった。そういう話もよく出る。うちの班の話になった。S君が

「でもうちの班はポテンシャルがすごいと思う」

といった。

「A君はまじめにやればすごいし、俺は話の長ささえ直せばいいし」

「たしかに(笑)」

「○○(僕)は自分に自信がないところを直せば・・・」

「まあ、たしかに(笑)」(あ、これはもうこれ以上自分に自信のないキャラ続けてたらウザがられるな。今後一切やめよう。)

 

 会計の後、S君に「今日は急に誘ってごめんね」と言いかけて、やっぱり、「今日は急に誘ったのに付き合ってくれてありがとう」といった。ごめんっていうぐらいなら最初っから誘うんじゃねえよ、って思ったことが僕はある。S君がそう思うかは知らない。ただ模擬裁も上手くできないし将来も心配だし、やだなあと思っていたのを一緒に飲んでくれたことで多少気が楽になったから、感謝、持つべきものは同期の修習生、と思いながら靴を履いた。

 

 

 

 飲んだので帰りはバスに乗っていたら別の同期から

「また一匹死にました。残り七匹です。」

 とLINEが来た。

 数日前の土曜日、その同期と成り行きで金魚すくいをした。

 僕はすくった金魚を持ち帰りたくなかったので、「遊ぶだけ」を選んで金魚すくいをした。その同期はわんさかすくったうえ「持ち帰り」を選んだ。僕のすくった分まで自分で追加料金を払って持ち帰った。僕の家にバケツがあったのでいったんそこに入れた。家に水槽がないというので水槽を調達するまでの間必要だろうからそのままバケツを貸した。月曜日の修習で会ったとき、「すみません、一匹死にました」と言われた。

 そしてまた一匹死んだらしい。

 「埋葬してあげてください」と送った。

 続けて、「経験上、半分は死ぬのであと3、4匹死ぬと思います」と送りかけてさすがにやめた。代わりに、「飼育いつでも引き継ぎます」と送った。

 

 祭りの金魚は、とってきて数日以内に半分が死ぬ。残った半分もいつの間にか死ぬ。何回も全滅させてきた。全滅させても懲りずにすくってきてまた全滅させて、最後のほうは飼育の知識を得て3匹残ったのだけど3年ぐらい経って引くほど大きくなって、手のひらよりも一回りほど大きく育ったあたりで人にあげた。もう金魚は飼わないし、もうペットはおよそ飼いたくないと思っている。だから、「持って帰ります」とか言って小銭ごそごそ出そうとしてるの見ながら「この人金魚持って帰んのかよ・・・がんばれ」と思った。その同期は関東に戻るし僕はこのまま修習地にとどまるからもしかして僕が引き継がないといけないのかよとんでもないぞと最初おもったけど、でもきちんと関東に連れて行くつもりらしいからよかったと思っていたけど、でもバスの中で返信するときは、なんだかんだで置いていけばいいなと思った。エモいから。

 その同期とは進路が全然違うから実務に出たらたぶんもう会わなくなるだろうけど,残していった金魚だけはどんどん引くほどでかくなっていって、うわあきもいなと思いながらも僕は日々のルーティンとして朝、水槽にエサをひとつまみ落としてから出勤する。日常に修習の名残が組み込まれている。

 

 青いプラスチックのバケツにぼちゃんと移した金魚、出目金やら普通の赤いのやら9匹いたうちの2匹は僕がすくった金魚なんだけど、どの金魚が死んだのだろう。祭りから帰ってきて金魚を移すバケツはだいたいいつも青いプラスチックのバケツだなと思う。バケツに入れた金魚がゆらゆらしているのを見るとき、金魚の視界をつい想像してしまう。青一色なんだろうと思う。体の向きをどっちに変えても青ばかりで、そのうち日が暮れてきて暗くなって、何も見えなくなるんだと思う。めっちゃ怖いと思う。

 その同期の家で,金魚どんな水槽に入れてもらえているのだろうか。そういえば死んだ金魚はどこに埋められたのだろう。ふと気づくとひっくり返って浮いたまま死んでいる金魚。何匹生き残るのだろう。

 引き継いでもいいと思うけど、でも正直、持って行ったとしてもべつになんとも思わない。

 祭りの金魚ほど、命の儚い存在もないなあと思いますね。

 

 

追記

魚の視野、上方向にも広いらしい

バケツに入れても空が見えているのか