日曜日の銭湯

 

この前、夜走ってて思った。

よく考えたら僕が今住んでいるのは高校生のとき憧れていた土地だ…。弁護士は小学生のときから目指していた職で、弁護士になるならこの分野、と憧れた分野をまさに專門的に扱う先生のもとで僕は働いている。

 

あの頃の未来に僕らは立って…

 

困ったときすぐ電話できる同期がいる。ボスはポンコツな僕にも尊敬に値するレベルの根気強さで教えてくれる。

 

あの頃の未来+αに僕らは立っている。

 

あ、すごいことだこれは。って、走りながら僕は、その夜は月がけっこうきれいだったので、このまま飛んでいけちゃうかもねって気分になった。

 

が、それとこれとは別の話で本当に毎日疲れているので、日曜は、朝から開いてる銭湯にのんびりしにいく。

知らんおっさんたちの裸体だなあ、と思いながら湯船でぼんやりしたり、知らん、おっさんたちの、熱気…!、と思いながらサウナでなかなか進まない12分計を睨みつけたりして1時間半ぐらい過ごす。さっぱりして服を着て、のれんをくぐって、午前の気持ちいい陽射しの中に自転車を漕ぎ出すと、ああ、なんてすべてが優しい、という気持ちになるのでおすすめです。

 

その銭湯にて

そろそろ出ようと思って体洗うとこで固定シャワーを浴びてたら左側の方に座っているジジイのもとからタワシが排水溝を流れてきて僕の前を通り過ぎた。ジジイは気付いていなさそうだったので、僕は立ち上がって排水口まで流れていくタワシを追いかけ、拾おうと手を伸ばして気づいたんだけど(裸眼だから)、それはタワシでなく大量の毛の塊だった。ぎょっとしてジジイを振り返ると、こちらを気にする素振りもなく…なにやら毟っている?排水口を見るとやっぱりあれは毛の塊。

ここの銭湯は学生バイトが1日2時間かけて掃除をするため清潔なんだときいた。

学生ならば、、対処するだろう、毛塊に。その若さを頼りに、、。

 

出るときに、入口近くの別のジジイの体を洗うしぶきがかかった。

気持ちよく上がろうとした最後にジジイのしぶきがかかったぞ、と思った。

 

しぶきはただのしぶきなのに、ジジイをあえて結びつけた僕はジジイを馬鹿にしているのだと思った。

いつかは自分もジジイになるのに。

体力も気力も衰え、世の変化をぽかんと眺める側に回る日が来るのに。

いつか未来の街で、仕組みのよくわからん喫茶店とかでまごついて、「ジジイ、、」という視線を向けられる瞬間がくるのに。

その日が来たとき、僕は、ジジイを馬鹿にした今日のことを思い出せるだろうか。「ジジイのしぶき!笑」と笑いながら出た今日の脱衣場の光景を、思い出せるだろうか。思い出して、今日のしぶきのジジイに思いをいたすことができるだろうか。

今後どう生きたとしても、僕の人生はその瞬間にすべてが決定すると思った。僕が地獄に落ちるか極楽へ行けるかはその瞬間にかかっていると思った。

将来の自分、果たして…と思いながら服を着た。

 

Q.風呂を出るときの他人のしぶきなど本来は気にならないはずだったのに、なぜあえてそこでジジイのしぶきを意識したのですか。

A.その直前に毛塊がジジイから流れてきたからです。

タワシ(毛塊)を追いかけなければ、毛塊に気づくこともなく、ジジイを振り返ることもなく、ジジイというジャンルを意識することもなく、運命の日が設定されることもなく...

 


冒頭に戻って、あの頃の未来である今の状況、2Lの終わりのある日の自習棟前で声をかけられたのが分かれ道だったんだろうなと思う。

選択科目一緒に変えない?と誘われたのが分かれ道だったと思う。

浪人したのも同期を頼る気持ちが生まれたのも今の分野に進めたのも今の土地にいるのも、あの時変えた選択科目が起点です。感謝しています。

 

 

「毛塊」という熟語はない。

と思って検索したら、あった。

 

 

おわり